第2回 幼児期から英語を習わせることの注意点

最近、幼児期から英語を学ばせることがブームになっています。そこで今回はそのことをテーマにお話してみたいと思います。先日、私が野暮用で神奈川県庁に行った時も、ロビーのテレビで現在の小坂文部科学大臣が小学校から英語授業を導入することについてしきりに熱弁を奮っているのを暫し立ち止まって見ていました。日本人にはどうしても英語に対するコンプレックスがあり、それを克服するには幼児期からの方が当たり外れや子どもに対する苦痛がないという単純な発想から来るものだと思われます。しかし、こうした幼児期から英語教育を行おうとする場合、気を付けなければならない点がないわけではありません。

例えばアメリカ社会は他民族からなりますから、複数の言語に幼児期から接触するケースも稀でなく、結果、一般にバイリンガルとかトライリンガルと呼ばれる子供達も多く存在します。特に両親が移民の場合には自分たちが経験したような言葉の苦労を経験させたくないという思いが非常に強いですから、彼らの母国語を犠牲にしてでも子供に英語をマスターさせたいという家庭は非常に多いです。この思いは子供達を国際人にしたいために英語を覚えさせたいと思っている日本人の親の思いと似ています。

只、こうして英語を最優先させて子供が教育を受け成長した場合、英語も家族で話す言語もその両方とも中途半端に終わってしまうケースがない訳ではありません。言語というのは話す・聞くだけでなく、書く・読むも含みます。そういった読んだり書いたりの面で、どっちつかずになってしまうケースもない訳ではありません。特に、日本語の場合は、漢字の読み書きがネックとなりますし、英語と比べると、状況に応じた敬語の使い分けなどがより細やかな面がありますから、そうしたことも含めてきちんと使い分けて初めて「マスター」したことになります。特に漢字が読み書きできないというケースは非常に多く、加えて、フォーマルな文章がきちんと書けなくなってしまうというような形になってしまう場合が、小学校や中学校の低学年から英語に接触するケースには非常に多いように思われます。また、一般の人には信じられないかもしれませんが、一つの言語がしっかりとしている方が第二言語をより早く、効果的にマスターできるという報告もなされています。また逆に、小学校位まで英語に接触していても(例えば、親の海外転勤で小学校5年までオーストラリアで暮らしていたなど)、その後英語から離れてしまうと、大人になってから英語に戻ろうとしても基本的には白紙の状態からになってしまいます(一説には、音の聞き取りに関しては子供のころに刷り込まれているので優位だという話もありますが)。こうした事を全て考え合わせると、中学校の1年から3年位という日本語の基礎がしっかりした段階で英語を学ばせるのがベストであると私は考えています。

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桐蔭横浜大学 助教授(第二言語習得論・国際化教育専門)
ラジオ日経教育番組「憧れ阿部学級」司会
教育学博士 阿部憲仁
k-abe@msc-jp.com

・教育学博士(専門:国際的視野からの青少年教育論)
・桐蔭横浜大学助教授

<阿部 憲仁 (あべ けんじ)>
1964年生まれ。茨城大学教育学部英文科卒業。在学中に、アリゾナ州立リベラルアーツ 英文科留学。その後、サンフランシスコ大学教育学部大学院修士課程 T E S L 科 (英語 を第二言語として教える )で修士号を取得。帰国後、大手予備校、ラジオ講座、衛星放送 で英語講師を務める。
サンフランシスコ大学教育学部大学院博士課程 国際教育科にて博士号取得。サンフラン シスコ州立短期大学 E S L助手(米移民に対する英語教育)、ドミニカン大学やマリン短期大学ESL非常勤講師、北カルフォルニア大学言語・応用言語学部助教授&ESLプログラム 総責任者などを経て現在、桐蔭横浜大学助教授(英語教育)を務める。(http://www.msc-jp.com)