Category Archives: はじめよう!モンテッソーリ教育

第11回 豊かな感覚を育もう ?感覚教育はお母さんもいっしょに楽しむところから始まります?

 まわりの環境から必要なものをどんどん吸収していく乳幼児期には、特別に敏感な感受性を発揮する「敏感期」が訪れます。
 今日はその中で、「感覚の敏感期」と呼ばれる時期に対応している「感覚教育」についてお話ししましょう。

 私たちがまわりのものを知るための窓口となっているのが、「目、耳、鼻、皮膚、舌」という感覚器官です。「目で見る」「耳で聞く」「鼻でにおいを嗅ぐ」「手で触る」「舌で味わう」というように、五感を使うことによってその刺激は脳に伝わり、脳はそれを認識し必要な指令を体の器官に伝えます。
さて、私たちが生きていくために必要なこの五つの感覚が完成されるのが幼児期です。
 お子さんが、上空を飛ぶヘリコプターの音にいち早く気づいたりしたことはありませんか。またお気に入りのぬいぐるみやタオルの感触やにおいを楽しんでいつまでも離さないといった経験をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
 子どもは身近な環境を懸命に知ろうとする中で、音や肌触りといった情報のわずかな違いを見分ける力をつけていきます。このために、それぞれの器官をよりよく使って感覚を洗練させていく感受性が敏感になります。人間として発達していくために、この「感覚の敏感期」に、外界から感じ取る感覚を磨いておく必要があるのです。

 モンテッソーリ教育には、この敏感期に対応した「感覚教育」という分野があります。モンテッソーリの園を見に行くと特徴的な「はめ込み円柱」「ピンクタワー」「茶色の階段」「赤い棒」などの教具は、子どもたちが感覚を用いてそれぞれのわずかな違いを比べて段階づけていくという活動に使われます。
 これらは子どもの発達に則した優れた教具ではありますが、大切なこの「感覚の敏感期」にご家庭でも出来ることはたくさんあります。

 毎日の生活の中でお子さんにいろんな体験をさせてあげてください。お散歩の途中で青空を見たり、夕焼けの空を鑑賞したり、ときには雨を手のひらに受けてその感触を楽しんだっていいんです。洗面器に水を汲んで水遊びも子どもは大好きですし、お母さんが歌を歌ってあげるのもいいでしょう。軟らかいおやつとちょっと歯ごたえのあるおやつ、甘い味つけとちょっと酸っぱい味つけ、カレーのにおいやホットケーキの焼けるにおい。なあんだと思われるかもしれません。でもお母さんもいっしょに楽しむ生活の中に、感覚を豊かに育むチャンスは潜んでいるのです。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第10回 子どもがひとまわり大きくなる時 ?活動のプロセスが心を成長させます?

 お子さんを育ててこられた中で、子どもがぐんと成長したと感じられるときはどんなときだったでしょうか。毎日毎日寝返りをしようとがんばっていた子がある日を境に難なくできるようになった。食べさせようとする親の手を「自分でする」とばかりに払いのけて手づかみで食べていた子が、スプーンを使わせているうちに上手にすくって食べられるようになった。何もできない状態で生まれてから今までのお子さんの成長には目を見張るものがあったはずです。

 人間がひとまわり成長するときには、次のような過程を経ていくという特徴があげられます。

 ? 自分の意思で取り組む。
 ? 選んで始めたものに一生懸命関わる。何回も繰り返したり、難しくても投げ出さずに集中して関わる。
 ? 乗り越えたことで、達成感を味わい自信をもつ。

 このような経験をすると、不思議と心が安定し、積極的になり、人に優しくすることができるようになります。これは幼い子どもだけではありません。心が荒れて粗暴な振る舞いをするようになってしまった子も、自分で自信を持てるまで活動をやり遂げ、深い充実感を味わったときに変わっていくということがいわれています。

 「初めてのおつかい」という番組をご存知でしょうか。小さい子どもが頼まれたおつかいを自分の力でやり遂げる姿を見守る番組です。困難に出会っても誰に頼ることもできない状況の中、子どもは懸命に自分の力で乗り越えます。これはまさに先にあげた過程を経て、子どもたちが精神的にたくましくなった姿を見せてくれる例です。

 このような「自分の成長のための仕事」ともいえる過程がモンテッソーリ教育の中でも用意されています。子どもが自分で仕事を選び、集中して関わることで達成感を味わう。この経験をつむことで、自分のことができるようになるというだけでなく、もっと深いところで子どもは成長を遂げます。調和の取れた、人に思いやりの心をもつことができる人になっていくのです。

 ご家庭でお子さんの活動を見るときも、このプロセスを大切にしてあげてください。できた、という結果だけが大事なのではありません。過程が心を育んでいるのです。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第9回 伸びゆく子どもに私たちができること ?人格の基礎を作る時期に、あなたの思慮深い愛情を?

 お子さんの誕生日を迎えると、その子が生まれたときの事を思い出されるお母さんも多いことでしょう。まだ新生児の頃、お子さんが授乳するお母さんの顔をじっと見ていたのを覚えていますか? 腕の中の子どもの顔を見るのは、幸せなひとときだったのではないでしょうか。

 自分のことを何一つできないこの時期の子どもを母親が世話をすることは、母子の間に大事な関係を育みます。互いに触れ合ったり匂いをかいだり、声を聞いたり、見つめあったりすることが、子どもの安定した情緒を育み、受け入れられているという実感が、生きていく上での信頼感の基となっていくのです。

 生まれ出てきたこの世界が、母親との交流によって信頼できるところだと感じることのできた子どもは、興味をもってさまざまな行動を起こし始めます。次のステージへと進むのです。体を動かし、手を使い、いろいろなことを試すことで、この世界を知ろうとします。

 大人は見ただけで理解するということができますが、この時期の子どもは体や手を働かせる中で、この世界がどんなものなのかを学んでいきます。

 この時期、周りの大人も、子どもが一方的に世話をされる存在から次の段階へ進んだのだということを理解して接することが求められます。今、どんな援助が必要なのかを知ることが、子どもの調和の取れた成長に大きな影響を及ぼします。

 2歳を過ぎると一般的に反抗期と呼ばれる時期が訪れます。これは人格を形成する過程で、自立への大きな一歩となる大事な時期です。

 自分が思うように動けるようになり、まわりの世界を理解できるようになってきた今、彼らは一人前の人間として認められることを望みます。その結果、親の決定したことをそのまま受け入れるのではなく、自分の意見も認めてほしいと主張するのです。

 この時期には、自分が一人の人間として尊重されていると実感する機会を持つことが大切です。とはいえ、これは子どもの意見にすべて従うということではありません。一方的に命令するのではなく、選択肢を与えて決断を求めるのもいいでしょう。自分が認められているという実感と経験を通して、子どもは正しい意味での自我をもち、他を尊重することや協力するということを学んでいきます。

 子どもたちの持つ潜在能力に最大限に応える援助を私たちがしていくためには、子どもについての的確な知識を携えて、しかしがんじがらめになることなく、目の前の子どもに愛情を注いでいきたいものです。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第7回 無意識にやってあげていませんか??意識して動く? 

 今まで、子どもの成長過程に見られる「敏感期」、それに見合った「環境」を準備することの重要性、そしてモンテッソーリ教育の目標である「自立」についてお話をしてきました。さて、これらの知識を毎日の子どもとの生活にどう生かしていけばいいのでしょうか。

 我が子が生まれてからずっとおっぱいやミルクをやり、オムツを取り替えて 世話をしてきたお母さんは、子育てにストレスを感じる時があっても、一方こんなに私を必要とする存在がいるのだということに、喜びを感じた時もたくさんあったことと思います。

 そんな中で、子どもが少しずつ成長しているのはわかっていても、まだ小さいから、これは私がやってあげなければできないことだ、と無意識に世話を焼いていることはありませんか。子どもは日々変化しています。今までできなかったことが、ちょっとしたきっかけである日突然できるようになることは珍しくありません。

「自分で、自分で」と主張するお子さんの場合は、その気持ちをくんでタイミングよく対応することができれば、自分でできることを増やしていくことができます。ところが、そうでないお子さんは、いつのまにかやってあげることが親子ともに当たり前になってしまいます。学校に行き始める頃になって急に一人でやりましょうといわれても、子どもは戸惑ってしまうでしょう。

 子どもは自立へ向かって成長しているのだということを信じて、一人でできるようになるにはどうしたらいいかを意識してください。

 親が意識することによって、子どもへの接し方は当然変わってきます。子どもが興味を持っている行為をていねいにはっきり見せることで、子どもも意識してその行為をやってみるようになります。これが、子どもが一人でできる環境をつくる第一歩になるのです。

 また、大人のリズムや都合と食い違うためにいらいらしたり、つい子どもを叱ってしまう。こんな時こそ子どもを知るチャンスだと思ってください。どうしてこの子はものを投げるのだろう、どうしてこの子はじっと座っていられないのだろう。感情的になる気持ちを好奇心に変えて見てみてください。手を使って投げることに興味があるんじゃないか、今この子は歩きたいんじゃないか、お母さんの発見がお子さんのよりよい成長を助ける環境をつくるヒントになっていくのです。

 医師だったモンテッソーリが、子どもの可能性を発見していったのは、科学者として客観的に見て分析するという術が身についていたからかもしれません。お母さんも、毎日の生活の中で意識して見る、意識して動くことを取り入れてみてください。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA 

第6回 「自分でしたい」は自立の芽生えです ?年齢に見合った自立をさせましょう?

 「自立」という言葉を聞いて、何を思い浮かべられるでしょうか? 子どもが大きくなりやがて成人して、親の援助を必要としなくなったときの姿をイメージされる方もおられるでしょう。これも大きな一つの自立の形です。けれども、子どもの自立をめざすといった場合、そんな遠い将来のことばかりを指すのではありません。文字どおり自分で立って歩けるようになるころから、こどもの自立への道は始まります。成長していく子どもにとって、その年齢に見合った自立は存在するのです。

 立って歩けるようになる時期に前後して子どもは盛んに体や手を使って活動しようとします。食べさせようと差し出したスプーンを奪い取って、「じぶんでする」という意志を見せるという場面は、皆さんにも経験がありませんか。ひとりで歩くと言って絶対手をつなごうとしないとか、着替えるときのボタンの留めはずしは決して人に譲らないとか、つい大人が手を出してしまうとびっくりするほど泣いて初めからやり直さないと気が済まない、というようなことがあちこちの家で繰り広げられていることと思います。これは、自分の力で生きようとするエネルギーの表れであり、それほど「自立」に対する願望は強いものなのです。

 この時期の対応によって、大きく子どもは変わります。自分でしたい、けれどもうまくいかない、といったときに、大人がやってあげるということを繰り返していると、そのうち子どもは自分でやろうとせずに大人の援助を待つようになってしまいます。反対に、子どもの気持ちに添って、どうすればできるかやり方を丁寧に見せるということをこころがけると、子どもは一生懸命がんばってやり遂げようとします。そしてやり遂げたという経験を重ねるうちに、「ひとりでできた」という自信が、次のことに向かう意欲や小さい子への思いやりにまでつながっていくのです。

 靴をはく、洋服を脱ぐ、手を洗う、トイレの始末をする、食器を運ぶ、等々 基本的な技術を身につける、そのための適切な援助をすることが、子どもの身体的な自立にとどまらず、精神的な自立も促すということを心にとめて、お子さんとの生活を送ってみてください。子どもの新たな一面を見ることができるでしょう。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第5回 子どもの自立を助ける環境をつくろう?環境作りのヒントは子どもとのやりとりの中にあります?

 秩序や感覚、運動、などのさまざまな敏感期を迎えている子どもたちにどんな環境を準備するとよいのでしょうか。モンテッソーリは、科学者としての鋭い観察力と深い洞察力をもって、子どもを観察し、子どもが自らを成長させるために必要なさまざまな教具を作り出しました。モンテッソーリの園にあるこれらの教具は、もちろん環境のひとつとして大切なものですが、教具を準備すれば子どもは自ら望ましい成長をとげるのか? いいえ、そうではありません。

 モンテッソーリが初めにしたのは、先入観をもたずに子どもを観察したことでした。そして幼児の秘密とでもいうべき生命の輝きを見つけたのです。これは彼女が出会った子どもたちだけではなく、今ここにいる子どもの中にも必ず見いだせるものです。ですから、お母様方自身が毎日の生活の中で子どもをよく観察するところから環境作りはスタートします。

 たとえば、子どもと一緒に出かけようとしています。時間がないのでそれまで遊んでいた子どもを中断させて靴をはかせようとします。すると子どもはいやがって靴をはこうとしません。気がせく母親は子どもをしかりつけ、まだ泣きやまない子どもを引っ張って出かけることになってしまいました。ここで、子どもをよく観察してみると、こんなことに気がつくかもしれません。

 ・子どもがしようとしていたことがまだ途中だったのではないか。
 ・子どもの生活のリズムは大人よりずっとゆっくりなのではないか。
 ・お母さんのように自分で靴をはきたかったのではないか。
 ・大好きなお母さんにしかられると、子どもは大人が考えるよりずっと傷つく
  のではないか。
 ・泣いて訴えたのに応えてもらえないことに、自分が否定されたような気持
  ちをもったのではないか。

 子どもの様子から何かに気づいたお母さんは、次に出かけるとき子どものペースにあわせられるように、早めに支度を始めるかもしれません。あるいは靴をはくところをゆっくり見せて、子どもができないところだけ手助けするかもしれません。これは子どもの自立を助ける環境をりっぱに準備したことになるのです。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第4回 子どもを伸ばす環境をつくろう ?敏感期にあった環境を整えることが子どもの可能性を広げます?

 幼児期に子どもの中からあふれ出る特殊なエネルギー「敏感期」についてお話ししてきました。お母さんもモンテッソーリの子どもの見方を知ると、日常の中で我が子に訪れた「秩序の敏感期」や「運動の敏感期」の姿を、これがそうなんじゃないかしらと、気づくことが増えていくと思います。
 子どもは、何もできない存在としてこの世界に生まれてきます。そして、ひとりで様々なことができるようになろうとします。「自立」に向かって歩み出すのです。ところが、これは家庭ではいたずらや困ったこととして現れることが少なくありません。ドレッサーの引き出しを開けて口紅のふたを開けて家具に塗ってしまったとか、お友達のうちに遊びに行ったら壁に名前を落書きしてしまったとか、おかあさんにとっては叱る対象になることがいっぱいです。
 でもこれは自分の意志通りに体を動かすことができるようになりたいという、耐え難い衝動としての行動であることを心にとめておいていただきたいのです。

 モンテッソーリは出会った子どもを観察し、「なぜそうするのか」疑問を持ち、その科学者としての優れた知性をフルに働かせて研究に取り組みました。そして、生理学や生物学などの知識を元にその根拠を明らかにしていきました。その中で子どもの敏感期に見合った環境の場として整えられていったのが、モンテッソーリの作った子どもの家でした。

 モンテッソーリ教育の場では、子どもの敏感期にあわせて環境を準備します。その分野は、「日常生活の練習」「感覚教育」「言語教育」「算数教育」「文化教育」に分かれています。この5分野は、それぞれ子どもの「運動の敏感期」「感覚(五感)の敏感期」「言葉・文字の敏感期」「数に対する敏感期」「文化に対する敏感期」に対応したものを体系化したものです。
 どれも、幼児期という子どもが自ら育とうとしている時期に、それを助けるべく見合った環境を整えるという立場から生まれました。

その中で、基本となっているのは
 1. 子どもを観察し「なぜそんなことをするのかしら」と疑問をもつ。
 2. 子どもが必要としている行動を安心してできるような環境を整える。
 3. その活動を、子どもが理解して一人でもできるように、やり方をわかりやすく示す。
という考え方です。
 この環境の中で、子どもたちは自分の興味に沿ってひとりでいろんなことができるように成長していきました。
 モンテッソーリ女史の発見は、私たちにも追体験することができます。環境を整えることによって、子どもの可能性を広げていくことができるのです。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第2回 「運動の敏感期」について ?子どもの困った行動、それは「敏感期」の現れかもしれません?

 幼児期と呼ばれる6歳ころまでの時期、子どもには、抑えがたいほど強い感受性が現れます。これを「敏感期」と呼び、引き起こされた行動はおとながびっくりするほどの集中力をもち、没頭するほどの強いエネルギーを秘めています。

 お子さんとの生活の中で、何か静かだなあと思ったら子ども部屋の一番下の引き出しから洋服を全部引っ張り出していたとか、台所で下の棚からタッパーを取り出してふたを開けるのに夢中になっていたとかいう経験はありませんか。

 これは、お子さんが自分にとってもっとも必要なものを環境の中に見つけて、エネルギーを燃え上がらせ関わり始めた姿なのです。もっとも必要なものが洋服?タッパー? いえいえそうではありません。ここで言うもっとも必要なものとは「動き」です。手や腕を使ってものを引っ張る動き、あるいは指先を使ってものを開ける動きがしたいという内面からの欲求の現れ、すなわち「運動の敏感期」が訪れた姿なのです。

 この場合の「運動」には、寝返りやハイハイ、立つ、歩く、走る、などの体全体を使った大きな動きから、わざと縁石の上を歩きたがるとか重いものを運びたがるといったバランスが必要とされる少し高度な動きまで、さまざまな「運動」が含まれます。また引き出しを開けるなどの手や腕を使う動きや、糸屑をつまんだり隙間に物を詰め込んだりする指先の細かい動きも、幼児期に子どもが好んで行う「運動」です。

 子どもは、その脳の発達に伴って階段を一段一段上っていくように動きを習得していきます。動きに関わる必要なものを環境の中から選び取ってそれぞれの機能を充分に発達させていくのです。親の都合とはおかまいなしに動き回ったり、歩きたがったりする背景には、実は「運動の敏感期」という自然の法則が存在しています。

 子育てをしているお母さん、お父さんは、このような乳幼児期特有の行動や感受性をふまえて、お子さんを観察してみてください。この時期の不思議な行動の意味を理解し見守る、さらには観察によって、この敏感期に対応する環境、子どもが集中して活動に没頭できる環境を作るというのが、モンテッソーリの考え方です。子どもの「敏感期」に気づいたお母さん、お父さんはきっとそれまでより子育てが楽しくなるのではないでしょうか。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。

第1回 モンテッソーリ教育について ?こどもの才能は「敏感期」に決まります。?それを発見するのは、お母さんのすぐれた観察力です。

 6歳までの幼児期は、子どもにとって自分を形成する最も大切な時期に当たります。この時期の子供には、特有の行動や興味が現れます。

 子どもが誕生してから2歳頃までの様子を思い出してみてください。生まれたばかりの頃、眠って起きてお乳を飲んでうんちをするだけの繰り返しだった子が、手足をバタバタさせるようになる。指をはじめとしてあらゆるものをしゃぶるようになり、声を出して笑うようになって周りや人の顔をじっとみつめたりするようになる。

 誰も教えないのに必死になって寝返りを打とうとする時期がしばらく続いた後、ひょっこり寝返りを打つようになる。おすわりも油断するとひっくり返るほど不安定だったのが、座っていられる時間がどんどん延びていき、連続寝返りやほふく前進とあわせて部屋の中を一人で移動するようになる。
 さあ、こうなるともう目が離せません。電気のコードを引っ張ったり、ティッシュを全部引っ張り出してしまったり、いつのまにかキッチンまで来て包丁の入っている扉をあけてしまったり・・・といった嵐のような日々を思い出す方も、今まさに真っ最中という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 日常生活の中で、大人の都合にはおかまいなしに突き進むこの時期の子どもは、いったいどこへ向かおうとしているのでしょう。

 子どもは、自分が生まれてきたこの世界がどんなところなのか、どんなものでできているのか、どんな法則で成り立っているのか知ろうと、全力でこの世界に関わっていきます。そしてからだの発達と相伴って、子どもは自分でできることを次々に増やしていきます。すなわち周りの環境を取り込みながら自分を構築していくのです。
 では、大切な時期にある子どもたちに、大人はどのように関わっていけばよいのでしょうか。その鍵はモンテッソーリの考え方の中にあるといえます。

 モンテッソーリ教育を知るうえで、この時期の子どもがもっている爆発的なエネルギーの存在と、子どもが環境を吸収しながら自立への道を歩んでいることをまず知っておいていただきたいと思います。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。