Category Archives: お母さんのモンテッソーリ

第6回 自律の心を育てよう

 入園や入学、進級などで緊張気味だった子どもたちも新しい環境に馴染んでくる頃です。お弁当が始まったり保育参観があったりして、お子さんの様子を改めて知る機会が増えてきますね。

 「うちの子落ち着きがないようだけど大丈夫かしら。」
 「仲のよいお友達はできたのかな。」
 静かな部屋の中でばたばた走ったり、物の扱い方が乱雑になってしまったりするのを見ると、家で「早く、早く」と急かしすぎだったかな、とちょっと反省させられることもあるでしょう。

 モンテッソーリの幼稚園や保育園では、園での生活にある程度秩序ができてくると、静粛練習、あるいは静粛遊びといわれる活動を行います。
 その一つに、線の上をつま先とかかとをつけてゆっくり歩く線上歩行という活動があります。線を踏み外さないようにゆっくり歩けるようになると、傾けるとこぼれるものや、揺らすと音の出るものを持って歩く、というように課題が加わります。子供たちは真剣な表情でこれに参加します。

 バランスを崩さないように、持っているものをこぼさないように、音をたてないように、と自分の動きをコントロールする体験を積み重ねるうちに、子どもの中で育ってくるものがあります。自分の気持ちをコントロールする力、自分の心の中に目をむける力です。
 楽器を奏でたり、スポーツの練習に励んだりする中で自律心が培われるのも、これに通ずるところがあるのでしょう。心と体はつながっているのですね。

 モンテッソーリの園では、自律が求められる約束事がいくつかあります。
始めた活動は終わったら教具を元の場所に戻さなくてはいけませんし、「私もやりたい」と思った子は活動中の子が終わるのを待つ必要があります。
 また私は、子どもが何かの拍子にお母さんが恋しくなっても「お迎えもうすぐよ」というより、少し厳しいようですが「泣いてもいいのよ。でも少しずつ自分で泣きやめる子になろうね。」と、気持ちを切り替えることを促します。

 人格形成の基礎となる幼児期に、自律の心を育てることは、とても大きな意味のあることです。子どもが成長していく一日一日を大切に、一緒に見守っていきましょう。

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WASEDA Frontier Kids Learning Centerアドバイザー野村謡子が園での保育経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。家庭で活かせる「モンテッソーリの子どもの見方」をお伝えしていきます。

野村謡子<のむらようこ>
青山学院大学卒。息子の「子どもの家」入園をきっかけに、モンテッソーリ教育に出会う。教師のディプロマを取得後、モンテッソーリ園に12年勤務。現在もWASEDA Frontier Kidsアドバイザーをはじめ、多岐にわたりモンテッソーリ教育に携わる。

第5回 自立への第一歩を踏み出そう

 公園の梅の花がほころぶ頃、お子さんの入園や入学を控え、春を心待ちにしていらっしゃるご家庭も多いことと思います。
 そこでこの時期、新しく集団生活に入る前に、ご家庭でぜひとも心がけてほしいことがあります。それは自分の身のまわりのことを、自分でできるように少しずつ環境を整えていくことです。

 これから入園を迎えるお子さんなら、たとえば、朝起きたら顔を洗うこと。お母さんに濡れタオルで顔を拭いてもらうのではなく、自分で洗面台の踏み台に乗ったら、ほっぺたにぴちゃぴちゃと水をつけるしぐさでかまいません。
 子どもの手が届くところにタオルをかけておいて自分で顔を拭くのです。
初めはお風呂で練習したり、洗面台で横にお父さんやお母さんが立ってやって見せたりするといいでしょう。

 パジャマから洋服に着替えるのも、着やすいように服を並べておいて、自分で着られるようにするのです。パンツやズボンの脱ぎ履きから、靴下の脱ぎ履き、それからシャツや上着のボタンを留め外しなど、少しずつ自分でできるところを増やしていきます。
 脱いだものもおかあさんが片づけるのではなく、自分でかごに入れるとか、たたむとかルールを決めておきます。

 出かけるときも、靴を一人ではけるようにしておきたいですね。右左の区別がわかるようにするにはどうすればいいか、かかとをうまく収めるようにどうしたらいいか、お母さんが工夫できるところはいろいろあると思います。

 お子さんと過ごす日常生活の中で、自分で手を動かして身の回りのことを行うことによって、どれだけお子さんが自信をもち、成長していくことでしょう。
 お母さんがそばにいなくても、自分でできるという自信が、集団の中に入っても落ち着いて環境に馴染み、積極的に関わっていくベースとなっていきます。

 今までなにげなくやってきたお子さんの世話を、今度は自分でできるように家庭環境を整えていく。ちょっと寂しくもありますが、これから家庭の一員として、そしてこれからの社会を作っていく一人として、頼もしく成長していってもらわなければなりません。自立への道を歩んでいくお子さんを暖かくサポートしていくために、お父さん、お母さん、その第一歩をどうぞ踏み出していただきたいと思います。

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WASEDA Frontier Kids Learning Centerアドバイザー野村謡子が園での保育経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。家庭で活かせる「モンテッソーリの子どもの見方」をお伝えしていきます。

野村謡子<のむらようこ>
青山学院大学卒。息子の「子どもの家」入園をきっかけに、モンテッソーリ教育に出会う。教師のディプロマを取得後、モンテッソーリ園に12年勤務。現在も WASEDA Frontier Kidsアドバイザーをはじめ、多岐にわたりモンテッソーリ教育に携わる。

第4回 いじめや自殺をなくすために、今私たちができること

 昨今の教育現場でのいじめや自殺の報道には、本当に心が痛みます。
 たとえ勉強やスポーツがよくできても、思いやりのある優しい子に育っても、命を絶つようなところまで追い込まれてしまうのでは、どのように子どもを育てていったらいいのか不安に思われている親御さんもたくさんいらっしゃると思います。

 未来ある子どもたちのために、私達大人は何ができるのでしょう。
 私は、子どもが幼いうちから、周りの人や自分を大切にすることを、もっと伝えていく必要があると思います。小さい子がそれと知らずに人を傷つけることをしたり言ったりした時、身近にいる大人がそれを見逃さないでいただきたいのです。

 先日、こんなことがありました。静かに遊んでいるAちゃんの傍で遊んでいたBちゃんが、いきなりAちゃんをつねったのです。Aちゃんはびっくりして今にも泣きそう・・・。
 それを見ていた先生は、「そういうことをしちゃいけない! Aちゃんは痛かったんだよ。」と叱りました。「痛い思いをさせたんだから、Aちゃんに謝らなくてはいけません。」とBちゃんに「ごめんなさい」を言わせた後、先生は、何にも言えないままだったAちゃんに、Bちゃんに向かって「もう、しないでね。」と言わせました。
 それまで子どもたちの様子を見ていた先生は、Aちゃんの関心を引きたくてつねるという形になったのだろうと推察したので、「仲よくなりたかったら、『僕の作ったの、見て』とか『いっしょに遊ぼう』とか、口で伝えましょう」と、Bちゃんには、自分の気持ちの適切な表し方をアドバイスしました。Aちゃんにも「痛かったね。いやなことをされたら『やめて』と言っていいのよ」と話しました。

 子どもたちにとっては、何かトラブルがあった時こそが学ぶチャンスです。
 行為の原因がどこにあるのか、そのときの状況によって対応は違ってくると思いますが、子どもたちには「やられたらやり返せ」ではなく、言ってはいけないことや人にしてはいけないこと、自分の気持ちの適切な伝え方を、どうぞ教えていただきたいと思います。

 「日常の生活」という毎日の小さな積み重ねの中で、子どもたちは育っていきます。人格が形成される幼児期にこそ、その中で大事なことを皆さんが伝えていってほしいと願っています。

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WASEDA Frontier Kids Learning Centerアドバイザー野村謡子が園での保育経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。家庭で活かせる「モンテッソーリの子どもの見方」をお伝えしていきます。

野村謡子<のむらようこ>
青山学院大学卒。息子の「子どもの家」入園をきっかけに、モンテッソーリ教育に出会う。教師のディプロマを取得後、モンテッソーリ園に12年勤務。現在も WASEDA Frontier Kidsアドバイザーをはじめ、多岐にわたりモンテッソーリ教育に携わる。

第3回 子どもにかける想い

 子育てをしていると、どうしてこの子は思うように育ってくれないんだろう、と思うことはありませんか。
 公園から帰る時間なのにまだ遊びたいと言って駄々をこねて困るとか、自分がやりたいと絶対譲らないので手を焼いているの、というお母さんもいれば、お友だちの中に入ると引っ込み思案で従ってばかりいる、見ていてはがゆくなってしまう、というお母さんもいるでしょう。いろいろ教えてもちっともできるようにならないから、いらいらしてしまう。どうしたらいいんでしょう。という方もいらっしゃることと思います。でも、ちょっと考えてみましょう。あなたの子どもだけれど、悲しい哉あなたの思う通りには動いてくれません。小さいけれど、別の一人の人間なのです。

 あなたが産み育てているお子さんは、生まれてしばらくの間は夜も昼もなく世話をしてもらったことでしょう。あなたが自分のことは後回しにし、お子さんの具合が悪くなったといえば病院に急ぎ、あるいは仕事を休み、お誕生日を祝い献身的に愛情を注いだ、のにもかかわらず、思う通りになってくれるわけではありません。小さな恋人に裏切られた気分です。でも小さいけれど、いえおなかの中にいる頃からすでに、一人の別個の人格を持った存在だということに気づいてほしい、というサインかもしれませんね。

 大抵のお母さんは、子どもが1歳半を過ぎる頃から自己主張を始めたり、いやと言って聞かなくなってきたり、といった経験をお持ちになると思います。
 それは、子どもが自立して生きていくための大切な準備です。
 順調に大きくなって行く時に必ず通る道、少しの間付き合ってあげてください。とはいえ、言いなりになるのとはちょっと違います。子どもに、自分で決めたり考えたりするチャンスを与えるのです。
 初めの例でいえば、時計を見せて予め帰る時間の約束をしておく、とかやり方をゆっくり見せて、自分でしやすいものを用意するとか、子どもの主張や要求を、受けとめたうえで対応する気持ちのゆとりが持てるといいですね。
 一人の人間として認められている、という感覚は小さな子どもにもわかります。自分や相手を大切にする心もその中から育まれていくことでしょう。

 日常の中で、口の出しすぎ手の出しすぎは、子どもの自主性や自信をつけるチャンスを奪ってしまいかねません。愛する子どもだからこそ、自立する精神を大事に育てていってあげてください。

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WASEDA Frontier Kids Learning Centerアドバイザー野村謡子が園での保育経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。家庭で活かせる「モンテッソーリの子どもの見方」をお伝えしていきます。

野村謡子<のむらようこ>
青山学院大学卒。息子の「子どもの家」入園をきっかけに、モンテッソーリ教育に出会う。教師のディプロマを取得後、モンテッソーリ園に12年勤務。現在も WASEDA Frontier Kidsアドバイザーをはじめ、多岐にわたりモンテッソーリ教育に携わる。

第2回 おとうさんの出番

 子どもにとって、一番身近な存在は、多くの場合お母さんであり、仕事で忙しいお父さんとは、週末やっとゆっくり会えるといった家庭が、最近は少なくありません。
 でも、それだけに子どもたちはお父さんと過ごせる時を、とても楽しみにしています。お父さんにも参加してもらえるイベントを催すと、子どもたちは「今日はパパと来たの」と、うれしそうに報告してくれます。
 悲しいときや心細いときに出る言葉は「お母さーん」でも、お父さんはちょっと特別な存在のようです。

 お母さんとはまた違うダイナミックな遊びができたり、別の角度から子どもを見たりすることができる存在として、お父さんの役割は大きいものがあります。
 水遊びをする、キャンプに出かける、果物や野菜の収穫を体験する、虫を捕まえる、動物や魚を見たり触ったりする、里山や森を歩く、・・・お父さんと一緒だからこそできることがあります。
 お子さんの年齢に応じて、近くの公園でも、ベビーカーを使わずに歩いて行ってみる、ボール投げの相手をする、かけっこをする、夕焼けを見る、などなどいろんな体験をさせてあげてください。お父さん自身が発見することが、きっとあるはずです。

 幼児期、子どもは手や足、五感を使って身のまわりの世界を知り、体得していきます。いわば自分の体を通して学んでいくのです。心と体の基本が形成されるこの大事な時期に、親子で様々な体験を共有するのは、お子さんの成長にプラスになるばかりでなく、お父さんやお母さんにとっても、子育て中ならではの大切なひとときとなるでしょう。

 社会状況の厳しい中、一方では、子どもを取り巻く環境や教育について、関心の高いお父さん方も最近は多く、父親による、子育てについてのサイトがいくつも誕生していますし、園や学校などの面談にご両親でいらっしゃるご家庭も増えています。
 子育てが母親だけに課せられたものではなく、子どもたちを父親ももちろん私たち周りの大人みんなで見守り育んでいける、そんな社会が子どもにとっても大人にとっても幸せなのではないか、と思います。

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野村謡子<のむらようこ>
青山学院大学卒。息子の「子どもの家」入園をきっかけに、モンテッソーリ教育に出会う。教師のディプロマを取得後、モンテッソーリ園に12年勤務。現在も WASEDA Frontier Kidsアドバイザーをはじめ、多岐にわたりモンテッソーリ教育に携わる。

第1回 信頼関係を育もう

 春。水仙やチューリップが蕾をほころばせ、いそいそと入園式に向かう親子連れや、新学期はりきって学校に向かう子どもたちを見かける季節になりました。

幼児期の子どもを持つお母さんやお父さんにとっては、我が子の成長を改めて感じつつ、新しい環境にうまく入っていけるか、期待と不安の入り混じったまなざしでお子さんを見守っていらっしゃることでしょう。今までの、『家庭』という環境の中で、お母さんやお父さんへの信頼感や安心感をしっかり培ってきたお子さんなら大丈夫、新しい環境に入って、慣れる時間に個人差はあっても、お友達や先生との間に信頼関係を築いていけるはずです。

 「うちは信頼感や安心感をしっかり培ってきたといえるのかしら」・・・そんなに難しく考えることはありません。まだ生まれて間もない赤ちゃんの頃、お子さんが泣いたらおむつを替えたりおっぱいをあげたりしたでしょう? 表情が豊かになってきた頃も、お子さんの顔を見て微笑んだり、抱っこして一緒に笑ったり話しかけたりしたでしょう? そんな自然なスキンシップやコミュニケーションが、人に対する信頼感や安心感を育むのです。

 「でも、まだ私と離れる時泣くので心配です」・・・泣くのはお母さんとの絆がしっかり作られている証拠です。馴染んだ『家庭』という環境から目新しい部屋、まだよく知らない先生といった新しい環境への変化を敏感に感じるのは当然のことです。お母さんが明るく「いってらっしゃい」と送り出してあげてください。
先生に慣れて、周りに関心が向いてくれば「行ってきます」「バイバイ」と、すんなり離れられるようになります。いざそうなってしまうと、今度は物足りなく感じられるかもしれませんね。

 『家庭』や『園』だけでなく、『親』や『教師』も広い意味で子どもを取り巻く環境といえます。自分を取り巻く周りの環境から、子どもはいろんなものを吸収していきます。

 人格形成の基盤を作る大事な時期だからこそ、乳幼児期に子どもを取り巻く環境を整えていく必要があります。それぞれのお子さんの発達や興味をよく観察しながらアプローチするモンテッソーリ教育の考え方は、モンテッソーリ園だけのものではありません。あなたのもとに生まれてきた命が、一人の人間として自己を確立していくために、そして楽しい子育てのためにご家庭でもぜひとも役立たせてください。

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WASEDA Frontier Kids Learning Centerアドバイザー野村謡子が園での保育経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。家庭で活かせる「モンテッソーリの子どもの見方」をお伝えしていきます。

野村謡子<のむらようこ>
青山学院大学卒。息子の「子どもの家」入園をきっかけに、モンテッソーリ教育に出会う。教師のディプロマを取得後、モンテッソーリ園に12年勤務。現在も WASEDA Frontier Kidsアドバイザーをはじめ、多岐にわたりモンテッソーリ教育に携わる。