第9回 伸びゆく子どもに私たちができること ?人格の基礎を作る時期に、あなたの思慮深い愛情を?

 お子さんの誕生日を迎えると、その子が生まれたときの事を思い出されるお母さんも多いことでしょう。まだ新生児の頃、お子さんが授乳するお母さんの顔をじっと見ていたのを覚えていますか? 腕の中の子どもの顔を見るのは、幸せなひとときだったのではないでしょうか。

 自分のことを何一つできないこの時期の子どもを母親が世話をすることは、母子の間に大事な関係を育みます。互いに触れ合ったり匂いをかいだり、声を聞いたり、見つめあったりすることが、子どもの安定した情緒を育み、受け入れられているという実感が、生きていく上での信頼感の基となっていくのです。

 生まれ出てきたこの世界が、母親との交流によって信頼できるところだと感じることのできた子どもは、興味をもってさまざまな行動を起こし始めます。次のステージへと進むのです。体を動かし、手を使い、いろいろなことを試すことで、この世界を知ろうとします。

 大人は見ただけで理解するということができますが、この時期の子どもは体や手を働かせる中で、この世界がどんなものなのかを学んでいきます。

 この時期、周りの大人も、子どもが一方的に世話をされる存在から次の段階へ進んだのだということを理解して接することが求められます。今、どんな援助が必要なのかを知ることが、子どもの調和の取れた成長に大きな影響を及ぼします。

 2歳を過ぎると一般的に反抗期と呼ばれる時期が訪れます。これは人格を形成する過程で、自立への大きな一歩となる大事な時期です。

 自分が思うように動けるようになり、まわりの世界を理解できるようになってきた今、彼らは一人前の人間として認められることを望みます。その結果、親の決定したことをそのまま受け入れるのではなく、自分の意見も認めてほしいと主張するのです。

 この時期には、自分が一人の人間として尊重されていると実感する機会を持つことが大切です。とはいえ、これは子どもの意見にすべて従うということではありません。一方的に命令するのではなく、選択肢を与えて決断を求めるのもいいでしょう。自分が認められているという実感と経験を通して、子どもは正しい意味での自我をもち、他を尊重することや協力するということを学んでいきます。

 子どもたちの持つ潜在能力に最大限に応える援助を私たちがしていくためには、子どもについての的確な知識を携えて、しかしがんじがらめになることなく、目の前の子どもに愛情を注いでいきたいものです。

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新宿区河田町にあるWASEDA Frontier Kids Learning Centerの園長、橋本 恵理が、自らの子育て経験を活かし、モンテッソーリ教育の内容を身近な例を挙げながら紹介。「個性と自立心を養う」教育法であることをお伝えしていきます。

<橋本 恵理 (はしもと えり)> 早稲田大学理工学部卒業。大手保育事業会社にて認可保育園や駅型保育所などの立ち 上げ経験を持つ。2003年、幼児教育におけるベンチャー企業である?フューチャーフ ロンティアーズ取締役(COO)に就任。現在、新宿区河田町にモンテッソーリメソッ ドをベースに日本人を対象としたインターナショナルスクール WASEDA Frontier  Kids Learning Centerの園長として、また2児の母としても活躍中。