第3回 上手く出来なくてもいいよ

 自分で着替えること、行儀よく食事をすること、大人しくしていること、挨拶をすること、言葉を覚えること、それから習い事、等々子供たちがこの時期、出来るようにならないといけないことは数多くあります。子供たちはこの時期、好き嫌いに関係なく、それらに懸命に取り組んでいくのです。私たちは、教えたことを子供がうまくこなせないと、ついつい嫌な顔を子供に向けてしまいます。“この前教えたばかりなのに”“何度言ったらわかってくれるの”。出来ないことが嬉しいという親はほとんど居ないでしょうから、それは仕方が無いことです。その分、上手く出来たときには褒めてあげることになります。子供が上手くやれると、つい嬉しい顔になってしまいます。親の嬉しそうな顔を見るだけで、子供にとっては親から褒められているのと同じことになるのです。しかし、上手く出来たときに褒められるだけで、子供は心から安心するのでしょうか。
上手く出来ないときには嫌な顔をされてしまう、上手くいったら嬉しそうにされる。そればかりだと、子供は“上手くやれないと受け入れてもらえない(愛してもらえない)”と感じるようになることがあります。

 最近、成人した大人の中に、仕事や勉強などを上手くやれているうちは良いのですが、一旦上手くやれなくなると、“自分は人に受け入れられない”と自分の殻に閉じこもってしまう人たちが多くなっています。カウンセリングで、そういう人たちの話を聞いていると、“自分は小さいときから、上手くやれたときだけ親から受け入れて(認めて)もらえたが、上手く出来ないと親に受け入れてもらえていないと感じていた”という幼児体験を持っていることが多いのです。

 上手く出来ないときに叱られるから、子供も次にやるときには失敗しないように注意しようとします。上手くいくときには褒めてもらえるから、子供は次回も上手くやろうとします。これらはしつけとして必要なことでしょう。でも、時々でいいですから、教えたことを上手くやれているとかやれていないとかには関係なく、無条件で子供を認めてあげるのはどうでしょうか。

 例えば、“上手くやれてもやれなくても、私はあなたを愛しているよ”という言葉を、時々子供に言ってあげるのです。“出来なくても愛している”という言葉をもらうことによって、子供は、例え自分の行動は叱られていても、自分自身は受け入れられていると感じることが出来るようになります。“出来ることは褒められるから嬉しいことだ、でも例え上手く出来ないからといって、決して自分に価値が無いわけではない。自分は元々価値がある人間なのだ。”子供はこのように自分の存在価値に対して自信を持つことが出来るようになるのです。

   これだけは覚えていてください。
   あなたが何を出来たからといって、
   あなたが何を出来ないからといって、
   私にとってのあなたの価値は何も変わりません。
   あなたはいつも大きな価値のある大切な存在です。
   だって、たとえあなたが何か失敗したとしても
   私はあなたとのことが大好きなのですから

—————————————————————————

幼稚園や小中学校での講演活動や個人カウンセリングで活躍中の心理カウンセラー、倉成 央がおくるコラム式カウンセリング。 講演現場での出来事やカウンセリングなどの実体験を織り交ぜながら、様々な心理的アドバイスを紹介していきます。

<倉成 央 (くらなり ひろし)> 心理カウンセラー、各種(文化サークル、専門学校等)心理カウンセリング講座講師。 診療内科医院などの紹介で個人カウンセリングを行っている。また不登校や引きこもり、家庭内暴力等子供の問題や、子育ての問題、母親のストレスケアーについても、多くのカウンセリングを実施している。 幼稚園や小中学校での講演活動も行っており、主な講演テーマには「こんな言葉が子供を傷つける」「ゆとりをもって子供と接するために」などがある。